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札幌地方裁判所 昭和45年(手ワ)14号 判決

原告 株式会社丸栄鈴川商店

右代表者代表取締役 鈴川義人

右訴訟代理人弁護士 大島治一郎

被告 葛尾克己

主文

一  被告は、原告に対し、金三〇万円およびこれに対する昭和四三年一〇月七日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、請求原因として、

「一 被告は次の約束手形二通を振り出した。

(一)  金額 一五万円

満期   昭和四三年九月三〇日

支払地  札幌市

支払場所 株式会社北洋相互銀行すすきの支店

振出地  札幌市

振出日  昭和四三年八月三〇日

受取人  株式会社丸栄鈴川商店

(二)  金額 一五万円

満期 昭和四三年一〇月七日

(右のほかは(一)と同じ)

二 原告は右各手形を訴外株式会社北海道銀行に裏書し、同銀行は各手形の満期に札幌手形交換所において各手形を株式会社北洋相互銀行に呈示したが、支払を拒絶されたため、原告は各手形を受け戻して現に所持している。

三 仮に、本件各手形が被告の作成したものではなく訴外東秋三の作成したものであるとしても、東は、被告名義で銀行当座を開設し、被告名義の記名印および印鑑を所持して、手形取引を行なっていたものであり、被告はこれを許諾していた。本件各手形も右のような状況下で訴外東が振り出したものであるから、被告には本件手形について振出人としての責任がある。

四 よって、被告に対し、本件約束手形金三〇万円およびこれに対する各手形の満期以後である昭和四三年一〇月七日以降完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。」

と述べ(た。)≪証拠関係省略≫

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「請求原因一項の事実は否認する。本件各手形は訴外東秋三が被告名義の記名印および印鑑を偽造して、それを用いて振り出したものであり、偽造手形である。

同二項の事実は認める。

同三項の事実中訴外東秋三が本件各約束手形を作成したことは認めるが、その余の主張は全部否認する。」

と述べ(た。)≪証拠関係省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

被告は、従来から訴外東秋三と知りあいであったが、同訴外人が昭和四三年六月六日刑務所を出所するにあたりその身元引受人となり、右東が間もなく「丸和コンサルタント」という名称で室内装飾業を始めてからは同人に協力してその営業を手伝うようになった。右東は、銀行と当座取引をするにあたり、自己の名義では銀行取引ができないところから、「丸和コンサルタント葛尾克己」なる記名印と「葛尾」名義の印鑑を無断で作成用意したうえ、被告の名義を冒用して当座預金口座を開設し、右記名印および印鑑を用いて被告名義の約束手形を振り出した。被告は間もなくこのことを知ったが、東に対し、口座を開設した以上仕方がないが迷惑をかけないようにしてくれと注意しただけで、東が被告名義で手形を振り出すのを許した。原告主張の本件約束手形二通はその後の昭和四三年八月三〇日頃このようにして東秋三によって作成され、原告に交付されたものであるが、この振出について被告の個別的な諒解は得ていなかった。

右のとおり認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

右によれば、本件各約束手形の振出について被告の個別的な同意がなかった以上、訴外東秋三が被告の意思に基づきその機関として本件手形を振り出したものとはいえないが、被告は自己の氏名を用いて手形行為をすることを東に対し許諾したものであるから、商法二三条により、右手形の取得者に対してはその取得者の悪意または重過失を立証しない限り右東と連帯して本件手形につき責任を負わなければならない。この点につき、営業名義の貸与でない場合には商法二三条は適用されないとの見解もあるが、同条をそのように限定的に解釈するのは正当ではないし、また、商法二三条が名義貸与者と名義借用者の連帯責任を規定していることから同条を適用するためには名義借用者の行為によって借用者自身が責任を負う場合でなければならないとして、名義貸与者の名義のみを表示して手形行為をした場合には名義貸与者の手形行為自体が成立しないとして名義貸与者の責任をも否定する見解もあるが、手形行為者が何人の名義を用いようとも、その名義が行為者の通称であると否とを問わず、その名義を自己を表示するための名称として使用した限り、その者の手形行為とみるべきものであるから、商法二三条を適用するうえに妨げはない。

二  しかして、請求原因二項の事実については当事者間に争いがない。

三  以上によれば原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条二項を各適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲守孝夫)

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